CHAPTER 03 — JAPANESE STARTUPS

国内の核融合スタートアップ

大学の研究室から生まれた日本発フュージョン企業が、世界市場で存在感を高めています。

核融合スタートアップというと米国企業が注目されがちですが、日本にも大学発を中心に有力企業が育っています。本章では、国内の核融合スタートアップの事業モデル、資金調達、そして産業エコシステムの現況を報告します。

国内エコシステムの全体像とJ-Fusion

日本の核融合エネルギー産業のエコシステムは、(1)QSTや核融合科学研究所・大学などの研究機関、(2)ITERやJT-60SAの機器製造を担ってきた重工・電機・素材メーカー、(3)2019年以降に相次いで設立された核融合スタートアップ、という3層で構成されています。2023年の「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が産業化を国家目標に据えたことで、この3層をつなぐ動きが一気に加速しました。

その象徴が、2024年3月に設立された産業協議会J-Fusion(フュージョンエネルギー産業協議会)です。スタートアップ、重工メーカー、商社、金融機関など数十社が参画し、規格・基準づくり、政策提言、国際連携を進めています。会員数は設立後も増加を続けており、核融合発電を「研究テーマ」ではなく「産業」として扱う企業の裾野が国内で着実に広がっていることを示しています。

国内スタートアップの多くが大学発である点も特徴です。核融合は装置・計測・材料にまたがる総合工学であり、数十年にわたる大学・国研の研究蓄積なしには事業化できません。米国でMIT発のCFSが成功モデルとなったように、日本でも京都大学、大阪大学、核融合科学研究所といった拠点の知が、スタートアップという形で市場に接続され始めています。大学の技術移転機関や国立研究機関の成果活用制度が、この流れを制度面で支えています。

エコシステムのもう一つの構成要素が、スタートアップと既存企業の協業です。重工メーカーは製造委託先として、商社は海外販路と資金の提供者として、素材メーカーは共同開発パートナーとして、それぞれスタートアップと結びついています。ゼロから自社開発するには裾野が広すぎる核融合において、この水平分業は日本の産業構造と相性がよく、エコシステム全体の開発速度を高めています。

京都フュージョニアリング: プラント技術で世界へ

国内スタートアップの筆頭格が、2019年設立の京都大学発京都フュージョニアリングです。同社の特徴は、自社で核融合炉を建設するのではなく、プラズマ加熱装置や熱取り出しシステムなど「発電プラント側」の技術に特化している点にあります。プラズマを加熱するマイクロ波源であるジャイロトロンでは世界屈指の技術を持ち、英国原子力公社(UKAEA)や海外の核融合スタートアップから受注を重ねています。

同社は、核融合発電の心臓部である熱・燃料サイクルを実証する試験設備「UNITY」を国内に建設し、さらにカナダ原子力研究所(CNL)と合弁会社Fusion Fuel Cyclesを設立して、トリチウム燃料サイクル設備「UNITY-2」の開発を進めています。累計調達額は百数十億円規模に達し、「発電炉が誰のものになっても、プラント機器は京都フュージョニアリングから買う」というポジションを築きつつあります。このビジネスモデルはブログ記事で詳しく解説しています。

同社は英国・米国にも拠点を設け、各国の国家プログラムや民間プロジェクトへの供給体制を整えています。日本のものづくり企業と連携して製造を国内に残しながら、販売はグローバルに展開するという構図は、核融合サプライチェーンにおける「日本発・世界供給」モデルの先行例として、後続のスタートアップや部材メーカーの参考になっています。

Helical Fusion: 定常運転を狙うヘリカル炉

2021年設立のHelical Fusion(ヘリカルフュージョン)は、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)で30年以上蓄積された研究成果を事業化する、世界でも希少なヘリカル方式の核融合スタートアップです。ヘリカル方式はプラズマ電流を必要としないため、原理的に定常運転に向いており、「止まらない核融合炉」を最初から狙える点が最大の強みです。

同社は、高温超伝導(HTS)マグネットと液体金属ブランケットを組み合わせた定常核融合炉「Helix」シリーズの開発を進め、2030年代の実用化を目標に掲げています。2025年には数十億円規模の資金調達を実施し、HTS導体の通電試験など要素技術の実証を前進させました。発電炉としての完成度を重視する堅実な開発方針は、国内の重工・素材メーカーとの親和性が高く、日本型の産業連携モデルとして注目されています。

同社の計画は、まず小型の実証装置でHTSヘリカルコイルの成立性を確認し、段階的に統合実証へ進むというものです。ヘリカル方式は装置の建設難度が高い一方、実現すればメンテナンス期間以外は止まらない発電所となるため、稼働率で経済性を挽回できる可能性があります。「最初に発電する炉」ではなく「最初に商業的に成立する炉」を狙う戦略は、トカマク先行の世界勢に対する明確な差別化と言えるでしょう。

EX-FusionとBlue Laser Fusion: レーザー方式の挑戦

レーザー核融合では、大阪大学レーザー科学研究所の研究基盤から2021年に設立されたEX-Fusionが、商用レーザー核融合炉の実現を目指しています。同社は毎秒複数回のレーザー照射と燃料ペレットの高精度追尾・供給という工学課題に取り組み、その過程で生まれるレーザー制御技術を、宇宙デブリ対策や産業用レーザーなど他分野へ展開する「技術のスピンアウト」も収益源としています。豪州の研究機関との連携など国際展開も進めています。

また、青色LEDでノーベル賞を受賞した中村修二氏が創業したBlue Laser Fusionは、日本にも研究開発拠点を置き、独自のレーザー方式による核融合発電を構想しています。米国立点火施設(NIF)の点火成功以降、レーザー方式への投資家の関心は世界的に高まっており、日本のレーザー技術の蓄積は、この潮流における重要な競争資産となっています。

レーザー方式の産業化には、高出力レーザーの連射化に加えて、燃料ペレットの大量生産と精密供給という固有の課題があります。逆に言えば、光学部品、精密加工、高速制御といった日本の製造業が得意とする領域が競争力の核心であり、浜松ホトニクスをはじめとする国内光学メーカーの技術が、レーザー核融合の実現可能性を下支えしています。スタートアップと部材メーカーの距離が近いことは、日本のレーザー核融合エコシステムの利点です。

FASTプロジェクトと産学連携

スタートアップ、大学、既存メーカーの力を結集する動きとして注目されるのが、FAST(Fusion by Advanced Superconducting Tokamak)構想です。高温超伝導マグネットを用いたコンパクトなトカマクにより、2030年代に日本国内で発電実証を行うことを目指す民間主導のプロジェクトで、京都フュージョニアリングをはじめ国内外の研究機関・企業が参画しています。ITER・JT-60SAで培った日本の技術基盤を、民間のスピード感で発電実証へつなげる試みとして、政府戦略の「2030年代発電実証」との連動が期待されています。

FASTの特徴は、最初から「発電」と「燃料増殖」の統合実証を掲げている点にあります。プラズマ性能の実証に特化した海外の実験装置と異なり、発電所として必要な要素を一体で検証する設計思想であり、成功すれば商用炉への距離が一気に縮まります。参画企業にとっては、自社機器を実機環境で実証できる貴重な機会でもあり、サプライチェーン形成の求心力としての役割も期待されています。

資金調達動向と事業モデルの比較

国内核融合スタートアップの資金調達は、2023年の国家戦略策定を境に大型化しました。政府もSBIR(中小企業技術革新制度)やNEDOのプログラムを通じて開発を支援しており、民間VC・事業会社・政府系資金の3本柱が形成されつつあります。下表に主要企業の概要を整理します。

企業設立/母体方式・事業領域事業モデルの特徴
京都フュージョニアリング2019年/京都大学ジャイロトロン、熱・燃料サイクル(UNITY)プラント機器の外販で発電前から収益化。海外受注多数
Helical Fusion2021年/核融合科学研究所の成果活用ヘリカル方式定常炉、HTSマグネット定常運転特化。2030年代の実用炉Helixを計画
EX-Fusion2021年/大阪大学レーザー核融合、高速追尾レーザー制御レーザー技術の他産業展開と発電炉開発の両輪
Blue Laser Fusion2022年/米国発(日本拠点あり)独自レーザー方式ノーベル賞受賞者創業。日米連携型の開発体制
LINEAイノベーション等 新興勢2020年代前半直線型装置、周辺機器ほかニッチ技術特化型が多様に登場

図表1: 国内主要核融合スタートアップの比較(2026年時点、公開情報より当サイト整理)

共通するのは、発電炉の完成を待たずに要素技術を外販して収益化する戦略です。核融合発電という超長期の目標と、事業会社としての持続性を両立させるこのモデルは、サプライチェーン側の企業にとっても協業の入口となります。次章では、その土台となる日本のサプライチェーンと素材産業を解剖します。

資金面では、政府のSBIRフェーズ3による大型委託や、NEDOのディープテック支援事業が重要な役割を果たしています。民間VCの投資期間(通常10年程度)と核融合の開発期間のミスマッチを、政府資金と事業会社からの戦略出資が補完する構造です。今後は、発電実証プロジェクトの進捗に応じて、プロジェクトファイナンスやインフラ投資家の参入が焦点になると見られます。

海外勢との比較で見ると、国内スタートアップの調達規模は米国勢の10分の1程度にとどまりますが、資本効率では独自の強みがあります。国内には装置製造を担える協力企業が地理的に近接して存在し、研究機関の設備を活用できるため、同じ開発マイルストーンをより少ない資金で達成できる構造があるのです。「巨額調達の米国、資本効率の日本」という対比は、投資家が日本の核融合スタートアップを評価する際の共通した視点になりつつあります。